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東京地方裁判所 昭和29年(行モ)17号 決定

東京都墨田区緑町三丁目十三番地

申請人

永見泰雄

右代理人弁護士

宮川清市

同都千代田区大手町一丁目七番地

被申請人

東京国税局長

脇坂実

右当事者間の昭和二十九年(行モ)第一七号滞納処分執行停止申立事件について申請人代理人は申請人は中村常吉に対し昭和二十八年六月二十五日金二百二十五万円を貸付けその担保のため別紙目録記載の建物一棟(中村剛士所有名義)(以下単に本件建物と略称する)と中村常吉所有の宅地五筆に抵当権を設定しその旨の登記を経た。

然るに被申請人は中村製鋼株式会社の滞納中の国税金百三十四万三千三百九十三円(及び之に対する利子税額延滞加算税額滞納処分費がこれに加わる)、東製鋼株式会社の滞納中の国税金百五十七万三千三百十円(及び之に対する利子税額延滞加算税額滞納処分費がこれに加わる)等を徴収するため国税徴収法第四条の七第一項に基き右両株式会社は差押を免かれる目的をもつて本件建物の名義を中村剛士に変更したものと認定して昭和二十八年九月二十六日本件建物を差押え、同年十月一日その旨の登記を経た。そこで申請人は昭和二十九年六月十日被申請人に対し審査の請求をしたところ棄却された。

然しながら本件差押処分は次の理由により違法である。

(一) 申請人は前記中村常吉に二百二十五万円を貸付けるにあたり本件建物につき他に抵当権の設定なく且他より差押をうけていないこと、所有者たる中村剛士(中村常吉の長男)が多額の税金滞納のないこと等を調査のうえ貸付け抵当権を設定したものであつて全く善意無過失であるから申請人は本件建物につき抵当権に優先して国税の滞納処分による差押をうける理由はない。

(二) 本件建物取得のための資金は中村常吉及びその家族の調達したもので、本件建物はもともと中村常吉の長男の中村剛士の所有に属し前記中村製鋼株式会社の資産に属せす国税徴収法第四条の七第一項の場合には該当しない。

従つて被申請人のなした本件差押処分は違法である。そこで申請人は被申請人を相手どり東京地方裁判所に右差押処分の取消の訴を提起し(同庁昭和二十九年(行)第七七号事件)たが、被申請人は右取消し得べき処分に基いて公売手続中であるので若しこのまま放置するときには後日申請人が、本案の訴訟で勝訴の判決をうけても償うことのできない損害を蒙むることになるのでその損害をさけるため被申請人に対して本件差押処分に基く公売処分の執行の停止を命ぜられんことを求める旨申立てた。

被申請人の意見の要旨は申請人は本件建物に抵当権を設定しているだけであつて建物を現実に使用しているわけではないから本件建物の公売によつて申請人の蒙むる損害は金銭をもつて償うことができるものであるというにある。

よつて考えるに、本件差押処分に基き被申請人が公売処分をなした後に差押処分を違法として取消す判決が確定した場合において右公売処分の執行に因つて申請人のうける損失について単に金銭賠償のみでは償うことができないと思われるような特段の事情について申請人は何等開陳しないのであるから本件公売処分によつて申請人が償うことのできない損失をうけるものということはできないので申請人の申立は理由がないものと云わなければならない。よつて次のとおり裁判する。

主文

申請人の申立を棄却する。

(裁判長裁判官 飯山悦治 裁判官 桑原正憲 裁判官 鈴木重信)

物件目録

東京都江戸川区西一之江一丁目五十五番、五十六番

家屋番号同町一番の二

一、鉄骨造鉄板葺平家建圧延工場一棟

建坪 三百六十二坪五合

以上

(参考)

1 滞納処分執行停止決定申請

東京都墨田区緑町参丁目拾参番地

申請人 永見泰雄

東京都豊島区池袋壱丁目五弐弐番地

右代理人弁護士 宮川清市

東京都千代田区大手町壱丁目七番地

被申請人東京国税局長

脇坂実

滞納処分執行停止事件

申請の趣旨

被申請人が申請外中村剛士所有の別紙目録記載の不動産に対してなしたる中村製鋼株式会社及東製鋼株式会社の滞納処分に基く執行は本案判決をなすに至るまで之を停止する。

との御裁判を求めます。

申請の理由

一、申請人は申請外中村常吉に対し昭和弐拾八年六月弐拾五日金弐百弐拾五万円也を貸付け同時に別紙目録記載の不動産外土地五筆に抵当権を取得し之が登記を完了した。然るに被申請人は其後同年九月弐拾六日別紙目録記載の物件を何等関係のない中村製鋼株式会社の延滞税金等及東製鋼株式会社の延滞税金等徴収の目的を以つて之を差押えた、そして目下競売手続中である。

二、申請人は右差押竝に執行は不当であるから御庁に訴を提起し目下昭和二九年(行)第七七号民事第三部係として繋続中でありますが競売をされて了つては如何ともすることが出来なくなるので本案判決に至るまで執行を停止相成度申請します。

尚申請人主張の理由は別紙訴状に記載の通りであります。

附属書類

一、建物登記簿謄本 壱通

被申請人が差押へたことを疏明する。

右申請します。

昭和二十九年八月十八日

申請人代理人 宮川清市

東京地方裁判所 御中

物件目録

東京都江戸川区西一之江壱丁目五五番五六番

家屋番号 同町壱番地の弐

一、鉄骨造鉄板葺平屋建圧延工場 壱棟

建坪 参六弐坪五合

2 昭和二十九年(行モ)第十七号

申立人(原告) 永見泰雄

相手方(被告) 東京国税局長

昭和二十九年八月二十八日

相手方 東京国税局長

脇阪実

東京地方裁判所民事第三部 御中

意見書

意見

申立人の申立を却下する。

との御裁判を求める。

理由

申立人は本件建物について抵当権の設定を受けているだけであつて、これを現実に使用しているわけではない。よつて、本件建物の公売によつて申立人の蒙むる損害は金銭をもつて償ふことができるのであるから、行政事件訴訟特例法第十条第二項に定める処分の執行により償うことのできない損害の発生する場合に該当せず、本件申立は理由がないものと考える。

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